○RX推進基本方針
(令和4年9月28日)
1 はじめに
世界的にあらゆる面での破壊的変革が進み、わが国でもデジタル技術によるビジネスや生活の変革を目指すDX(デジタルトランスフォーメーション)を通して、デジタル社会への変革の歩みが強まっている。大学は、学理を追求する中で人材を育成することに加え、自らを変革して、この社会の歩みを牽引する役割を果たす必要がある。
この必要に鑑み、琉球大学は、業務のデジタル化や組織・活動の改革の取組を強めつつ沖縄ならではの特色を付加し、ポストコロナの新しい大学の姿を見据えて、本学の存在価値を再構築することを目指す「琉大トランスフォーメーション(RX)」推進プロジェクトを立ち上げることとし、2022年8月16日に「RX推進宣言」を発出した。
この宣言では、全学の一人一人の知恵と力を合わせ、「楽しくチャレンジ」「まず実行」をモットーにRX推進に取り組むとともに、このプロジェクトを通じて、大学機能の高度化と構成員の充実したキャンパスライフを実現すること、「地域とともに、豊かな未来社会をデザインする大学」としてさらに前進することを目指すと表明している。
RX推進プロジェクトは、その重要な基盤に、相互に関連する本学の業務をデジタル化によって改善するというプロセスが含まれており、そのことを考えただけでも、いかに複雑で大きな取組であるかが想像できよう。そこで、この複雑で大きな取組である本プロジェクトを学内の知恵と力を広く生かして進めるための「道しるべ」として、本基本方針を取りまとめる。
もっとも、本プロジェクトは様々な分野で「楽しくチャレンジ」「まず実行」という精神で迅速に取り組み、新たな道を切り拓くものであるため、プロジェクトの進展に応じて「道しるべ」を点検し、修正することも必要となると思われる。そのため、本基本方針はプロジェクトの進行に応じて適宜、改善が加えられることを前提に、プロジェクトのスタート時点のものとして策定することとする。
 
2 RXプロジェクトの背景、必要性、目標
(1) RXプロジェクトの背景と必要性
政府は本年6月7日に「デジタル社会の実現に向けた重点計画」を閣議決定し、デジタルの活用により「多様な利用者一人ひとりの声に柔軟に対応できる新たなサービスへと変貌していくこと」とした。経済産業省の研究会の「DXレポート2(中間とりまとめ)」や総務省の「情報通信白書」(令和3年版)などにも同趣旨の記述がなされており、デジタル変革への要請が強まっている。「文部科学省におけるデジタル化推進プラン」(2020年12月23日)もデジタル化を強調しており、大学における教育研究をはじめとする業務のあり方や進め方にも、大幅な変更が迫られつつある。
また、日本が直面している「少子高齢化に伴う労働人口の減少」、「労働生産性の低さ」などの課題に対応するため、2019年4月に働き方改革関連法が施行された。働き方改革においては、働く人々のニーズの多様化を踏まえ、個々の状況に応じて自律的に働き方を選択し、仕事と生活の調和を実現できるよう、多様で柔軟な働き方の選択ができる環境整備が求められている。
加えて近年、事務職員等が大学の主要機能へ参画することが求められてきており、そのことも明記する方向で大学設置基準の改正がなされようとしている。運営業務の効率化により、事務職員等が大学施策の企画立案や教育に直接かかわる大学の機能に力を発揮でき、また教員が教育研究により時間を割けるようにすることも重要となってきている。
大学入学者の多数を占める18歳人口の面からも、大学変革の必要性は明白である。18歳人口は、1992年に約205万人に達した後、減少の一途をたどり、2022年現在では112万人、そして10年後の2032年にはピーク時の2分の1以下の102万人と予測されている。大学存立の足元を揺るがすこのような変化の中で、「デジタルネイティブ」であるこれからの学生、そしてデジタル化が進む社会における本学のステークホルダーから選ばれる大学であり続けるためにも、デジタル化を促進し、本学の特色をより強化し、ブランド力を高める変革が不可欠である。
数年前に始まった新型コロナウイルス感染症のパンデミックを受け、大学は教育のあり方についても大きな変革を迫られた。本学は2020年度より、それまでに構築した情報通信基盤を可能な限り拡充し、それを活用することにより、オンラインによる遠隔授業やオンデマンド授業を実施してきた。こうした教育方法の活用は、かねてから求められていたものでもあったが、期せずしてそれを実際に全面的に行うことになったわけである。その結果、こうした方法のメリットとともに、対面での教育活動の重要性、構成員が集いフェース・トゥ・フェースで学び合うキャンパスの重要性を改めて強く認識することともなった。「アフターコロナ時代」に向けて、改めて対面授業と遠隔授業・オンデマンド授業のベストミックスを深く検討し、よりよい教育活動を進める必要がある。
コロナ禍への対応として、本学は教育面以外でも、これまで実施されたことのない規模で、遠隔会議や遠隔打合せ、デジタル技術を用いた業務運営などに取り組んできた。これらの取組の多くは、コロナ感染症蔓延の状況下で、大学の教育研究等の活動を可能な限り継続するために応急措置的に行われたものであり、これらについても「アフターコロナ時代」に向けて、再整理していくことが必要となっている。この際、本学も取組を進めるSDGsの理念「誰一人取り残さない(leave no one behind)」を踏まえ、全ての構成員を取り残すことなく取組を進め、持続可能な教育・研究・医療をはじめ大学の諸活動の展開、ひいては持続可能な社会の形成につなげること、また構成員の多様な生き方の尊重につなげることを取組の方向付けを考える際の理念とすることが求められる。
もちろん、以前から、ICTの発展を大学の諸業務・諸活動の改善・合理化に積極的に生かそうとする取組は種々実施しつつあった。また、本学では上原キャンパスの普天間キャンパス(仮称)への移転が予定されている。この移転における情報通信基盤面での十分な対応は重要な課題であり、キャンパスの分散配置ということから、教育、研究、管理運営等において生じる多くの問題についても、デジタル技術を適切に活用して最大限解決することが求められている。こうした取組について、コロナ禍による経験を踏まえて、いよいよ加速するときが到来したということである。
(2) RX推進プロジェクトの目標
以上のような背景と必要性に関する認識のもと、RX推進プロジェクトでは、デジタル化を進めて業務の見直しを図り、新たな社会のニーズに対応できるようにするとともに、本学構成員の業務を効率化し、業務負担の軽減により生じる余裕を生かし教職員がより働きやすい大学となるように取り組み、合わせて教育や学生サービスの充実を図り、学生が学修しやすい大学を目指す。これは、構成員のワークライフバランスを向上させ、ウェルビーイング(well-being)を高め、構成員がモチベーション高く、最大限のパフォーマンスを発揮できるように本学が前進することである。
すなわち、RX推進プロジェクトの目標は、「宣言」にあるように、デジタル化を全学の一人一人の知恵と力を合わせて強力かつ適切に推進し、教育・学生支援・研究・医療・地域貢献・国際交流の改善を図るとともに、それを通じて働き方、さらには組織のマインドを大きく変革することであり、大学機能の高度化と構成員の充実したキャンパスライフを実現して「地域とともに豊かな未来社会をデザインする大学」としてさらに前進することである。
 
3 RX推進に向けての取組
(1) 取組概要
本学ではこれまでデジタル技術を活用した書類や業務等の電子化(デジタイゼーション)を進め、特に新型コロナウイルス感染症の流行による行動制限が始まった後は、従前は紙書類でやり取りしていた手続きをオンラインに置き換えるなど、業務プロセス全体のデジタル化(デジタライゼーション)にも取り組んできた。今後は、これらをさらに進め、個別の業務プロセスにとどまらず、本学の組織及び業務全体をデジタル技術により変革(デジタルトランスフォーメーション)し、教職員が「人」がなすべき業務に集中できるようシステムで対応できる部分を効率化する。その成果を生かして教育・学生支援・研究・医療・地域貢献・国際交流・運営といった業務面、また学び方・教え方・働き方など、本学の在り方そのものの変革(琉大トランスフォーメーション:RX)を目指す。別図1
別図1
本学の事業内容は多岐にわたるため、全体を見渡すグランドプランのもとに、各業務分野での取組は、業務・運営RX、教育・学生支援RX、研究RX、医療RX、地域貢献・国際交流RXなどに整理して、それぞれ各担当理事の下で検討・実施していくことになる。また、全職員が業務の見直しや効率化を進める上で基礎となるデジタルツールについての基礎的な知識や技能を習得すること、そしてその機会を大学として積極的に提供することが重要である。
取り組みの初期の時点でのおもな事項は、業務・運営RXでは、諸手続のペーパーレス化やサービス向上を図るための身近な業務のデジタル化、さらには学生証・職員証のデジタル化により、これまで手作業で行っていた業務のデジタル化に取り組む環境を整える。教育・学生支援RXでは、コロナ対応の経験を踏まえ、対面授業と遠隔授業・オンデマンド授業のベストミックスを図りつつ、学修者本位の教育の促進と学びの質の向上を図るためのICTツールの適切な活用の推進が求められている。研究RXでは、研究の高度化促進のための機器管理等の自動化の推進や、研究データマネジメント体制整備や研究データマッチングの推進が求められる。医療RXでは、健康医療DXの推進による地域医療への一層の貢献が求められる。地域貢献RXでは、デジタル人材の育成など、時代のニーズに合ったリカレント教育、社会人教育、青少年教育の推進が求められる。
(2) 取組のスタイル
「RX推進宣言」で示したとおり、RX推進は「楽しくチャレンジ」「まず実行」を念頭に行動することが求められる。大きなシステムの開発などで用いられる「ウォーターフォール型」の手法では、実施要件・内容等を詳細に定義し、それに沿って最終的な完成まで作業を進めていく手法が一般的であり、当然、これが適切な場合にはこれを用いることになる。ただ、課題も、それに対応する手段も急速に変化していく中では、業務上の課題に対し、短期間で要求の変更への対応を積み重ねる「アジャイル型」手法により状況の変化に迅速に対応することがふさわしいものが増えており、これを積極的に用いることが望ましい。対応を積み重ね、そこから得られる知見を生かしてさらなる改善に取り組むことをRX推進の基本的なあり方とするゆえんである。
「アジャイル型」手法は、2001年に、ソフトウェア開発業界を代表する17人のメンバーによりまとめられた「アジャイルソフトウェア開発宣言」に基づく。ここで述べられている「短期間で要求の変更への対応を積み重ねる開発手法」を参考に、本学でも計画を進めるにあたり、短期の構想を作りそれに取り組み、その効果を測定してさらに行動するアジャイルな手法により、多様なメンバーの意見を統合した「集合知」を用いて決定・行動していく。このような取組を継続し、本学がデジタル技術の進歩による社会の変化の波に淘汰されるのではなく、その技術の進歩を生かして本学の「変革」を加速させるとともに、新しい技術やニーズを継続的に取り込み、状況の変化に迅速に対応しながら、構成員が成長のマインドセットを身に付け、自ら継続的にスキルアップに取り組む文化の形成を目指す。
このような「アジャイル型」の手法でRXを進めるにあたり、重要となるのが「デザイン思考」である。デザイン思考とは「人間中心」のアプローチであり、ユーザーとの対話を重ねることにより、ユーザー当人も意識していない潜在的なニーズを発見し、彼らとの対話に基づいてプロトタイプ(試作品)を作り、フィードバックを受けながら改善をしていくという手法である。本学が構成員や社会に提供するサービスの受け手側の視点から業務の在り方を検討する際に必要となり、課題を見出し改善する過程を積み重ね、教育や学生サービスの充実を図りつつより働きやすい大学を目指す取組の基礎となる。デザイン思考により、多様な立場・経験を持つ本学のステークホルダーのニーズを積極的に発見し、アジャイルな手法を取り入れてユーザーの視点を意識した改善を積み重ねることが重要である。
システムの開発において、それが適切である場合には、業務委託等も含むアウトソーシングは引き続き必要となる。一方で、いまMicrosoft 365やGoogle Workspaceなどを活用した内製開発が可能な領域が急速に拡がっている。課題ごとにアウトソーシングと内製開発のどちらが適切か検討し、情報セキュリティを確保したうえで、このような条件を生かして、可能なところから自ら内製開発を積極的に行うべきである。
アジャイル型の内製開発は、コンパクトなチームで「スモールスタート」、小さな成功でも共に喜び合う、それでチャージしたエネルギーを次の変革に向ける、というマインドで進めたい。デジタル化して仕事のプロセスを切り換えた場合、すぐには効率化したと感じられないことがありうるが、並行して業務のスクラップアンドビルドを進めるなど上司も含めた皆で取り組み乗り超えることが大切である。
(3) 全学の知恵と力を生かして取組を進める組織的体制
全学的なRX推進のため、学長を本部長とする「RX推進本部」(仮称)を立ち上げる。RX推進本部では、全学的な戦略の企画・立案や、学内の総合調整を担う。まずは、取組事項全体とそれぞれの工程の大枠や目指す姿を示し、工程管理など計画的な実行の基礎となるグランドプラン(基本計画)を策定する。RXを進めるにあたり、それまでの業務の流れを変える必要が生じた場合、規則等の改正が必要になることが考えられる。RX推進本部は関連部署と連携して、必要と思われる改正事項について適宜情報を提供する。
具体的な取組は各担当理事の下で検討・実施されるが、実施にあたっての推進支援のため「RX推進室」(仮称)をRX推進本部の下に設置する。これにより、業務分野ごとの検討にあたり他分野でも生かせる知見や実施して得られた経験の共有を図り、個別の検討がバラバラに行われることを防ぎ、全体としての作業が効率的に進むような実施体制を確保する。そして、個別プロジェクトの検討・推進にあたる各プロジェクトチーム(PT)内およびPT間の活発なコミュニケーションを促進する。本推進室では当初より、RXにより得られた知見や成果を共有し、改善の成果の継続性の担保を図る。これにより、いわゆる「野良アプリ」が生じることを防ぐ役割も担う。
各PTは、メンバー同士がフラットな関係で積極的なコミュニケーションを図りながら当該プロジェクトを進める。また、PT外の学生も含む構成員など関係する学内外の知恵と力を積極的に広く生かす形で取り組む。
 
4 おわりに
大学が直面する課題の変化やICT技術の進歩はその速度をますます速めることは間違いない。それゆえ、それらへの対応は必ずしも完成形を当初から見通せるとは限らず、対応の途上で直面する課題に応じて取組を見直す、アジャイルな手法を用いることが必要な場面が増えることも容易に想像できる。デザイン思考を生かしつつ「楽しくチャレンジ」「まず実行」を念頭に行動すること、そしてそれを可能にする組織へと本学が変わることが重要である。そこまで見通して、継続的にRX推進の取組を実施する必要がある。別図2
附 則
この方針は、令和4年9月28日に制定する。
別図1(第3項第1号関係)
琉大トランスフォーメーション(RX)とDX、デジタライゼーション、デジタイゼーションとの関係

別図2(第4項関係)
琉大トランスフォーメーション(RX)の手法、プロセス、目指すところ